江戸時代のサラリーマン川柳
毎年話題に上るサラリーマン川柳。
社会情勢や世相の風刺や、職場や家庭生活での悲哀を五・七・五の韻に乗せた巧みな表現に、思わず苦笑いしたり、「うまい!」と膝を叩きたくなります。
「川柳」は俳句から派生した形で誕生し、近世には民衆の間で流行して現在まで続いています。
実は江戸時代にも、サラリーマン川柳のようなその当時の世相を反映した句集というのは民衆の間で親しまれていました。
そんな江戸時代の川柳の中から秀逸な句を紹介していきたいと思います。
かけとりへ
内儀傷寒だとおどし
借金取りに妻が応対し、「家の人は傷寒(チフス等の伝染性疾患)で寝ています。」といえば、感染を恐れた借金取りも帰っていくという痛快な光景を表しています。
掛け取りはいわゆる借金取りのことで、“江戸っ子は宵越しの金は持たない”と言われているように蓄財せずに借金をしながらその日その日を送っていた人が多いようです。
ですので年の瀬などは取り立てにやって来た借金取りを、あの手この手で誤魔化したり追い返したりというのは日常的な光景でした。
藪医者の
友は遠方より来る
藪医者というのは近所では悪い評判が知れ渡っているので、診療にやって来るのはその評判を知らない遠方からの患者ばかりであるという皮肉を込めた句。
現代でも同じことが言えるかもしれません...。
その手代
その下女昼は物言わず
商家で一緒に働く手代と下女は裏ではデキていることが多いが、昼間は店の者に悟られないために一言も喋らない。
現代でいう社内恋愛。いつの時代も変わらない人間の心理を巧みに表現しています。
しかられた
下女膳だてのにぎやかさ
主人に叱られた下女が、腹立ちまぎれに食事の膳立てをガチャガチャと荒っぽくする様子を“にぎやかさ”と表現しています。
屁をひつて
おかしくも無い一人者
よく知られた有名な句で、一人所帯の侘しさを面白おかしく表現しています。
江戸は地方からやって来る侍や町人などで男性の人口比率が高く、独身の男性が多かったそうです。
泣きながら
まなこをくばる かたみわけ
親が死んで子供たちは悲しみにくれながらも、一方で形見分け(遺産)の配分に眼(まなこ)を光らせている。欲深い人間の心理を皮肉っています。
よくある光景(?)ですよね。
いかがでしたでしょうか。どれも今の世の中にもそのまま通用しそうな、うまい一句です。
当時の人々も今とあまり変わらない感覚で、苦笑いしながら川柳を楽しんでいたのかもしれません。