白玉の何ぞと人の問いし時~「伊勢物語」第六段・芥川より

伊勢物語は、平安時代初期の百二十五段で構成された歌物語。

作者不詳で男女の恋愛を中心に描かれた物語は、恋多き超絶イケメンだったと伝わる歌人、在原業平がモデルとも言われています。

物語は、高貴な女が蚊帳の中に隠れ、夜這いの習慣があった頃。
焦がれる想いは三十一文字の短歌にのせて告白するのが一般的だった頃の話。

伊勢物語の中から、悲恋を描いた一段、芥川を現代語に意訳して紹介します。

幻想的で切ない恋物語 「伊勢物語」第六段 芥川

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(意訳)

今は昔、ある男の話である。
男は長い年月、ある女に恋焦がれていた。
しかし彼女は身分高く、男には得がたい存在だった。
それでも女のもとに通って口説いていたのだが、ある晩、想いを果たそうとついに女を盗み出し、暗い夜道を女と共に逃げた。

途中、芥川という川に差し掛かる。
川を渡ったところで、女は男に問いかける。
「あれはいったい何かしら」
女は、月明かりに光っている草の露を見ていた。

まだ道は遠いが、夜はさらに更けてきていた。
そのとき雷鳴が鳴りひびき、そのうち大雨が降り出した。
男は近くに蔵を見つけて、女をそこに入れた。そこがの出るところだと知らずに・・・。

男は弓矢を背負って戸口に見張りに立った。
早く夜が明けてくれと願いながら。
しかし蔵の中で、女は鬼に一口に喰われてしまった。
女の「ああ。」という叫び声も、雷鳴と雨音にかき消されて男には届かなかった。

ようやく夜が明けた頃、蔵の中をのぞいて見ると女は姿形も見当たらない。
鬼に喰われてしまったのだ。
男は悲しみにくれて泣いた。あれだけ恋焦がれた女はもうこの世にはいない。

白玉か何ぞと人の問いし時 露と答えて消えなましものを

あれは真珠か何かかしら。
彼女がそう訊ねたとき、あれは露だよと答えて、
二人も露のようにはかなく消えてしまえばよかったのに。

これは二条の后が従妹の女御のもとに仕えていた時分にその美しさのあまり盗み出されたのを、その頃まだ身分が低かった兄の堀河の大臣と太郎国経大納言が聞きつけて取り返したという話である。それを鬼のしわざと言い伝えたものらしい。まだ后が入内する前の話である。

(以上)

数多くの恋物語が収められた伊勢物語の中でも、とびきりの悲恋を描いた段である芥川。どこか幻想的でロマンチック。そして胸が締め付けられるような物語です。

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